日本イコモス賞2022を受賞いたしました。
「頭ヶ島の集落里みち
―新上五島町 海のほそみち Landscape Museum ―」
新上五島町
代表者:町長 石田信明
新上五島町文化的景観整備活用委員会
代表者:委員長 荒木貞美
風景デザイン研究所(株)STEP
代表者:代表取締役 德永哲
【授賞理由】
通島の東に位置する頭ヶ島は、五島石と呼ばれる砂岩の採石地として栄えた島で、中通島東部の集落とともに2012年に重要文化的景観「新上五島町崎浦の五島石集落景観」に選定され、さらに頭ヶ島東部に設けられた上五島空港の一帯を除く島全体が、2018年に世界遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産となっている。この島内に点在する集落を結ぶ主要な道として使用されてきた「頭ヶ島の集落里みち」を、2019〜2021年度の重要文化的景観の保護事業として整備したものが本業績である。
五島石の採石加工で栄えた頭ヶ島には文化的景観の価値を支える生活、生業を物語る場所が点在しており、複数の集落やこれらの場所が主要生活道である「里みち」によって繋がれていた。しかし生業の衰退とともに昭和50年代後半から使用頻度が減って土砂や植物に埋もれていき、通行困難でかつ文化的景観としての価値が見えにくい状況にあった。観光の観点からは、島内産の五島石を用いた重要文化財頭ヶ島天主堂が所在する白浜地区が中心となるが、他の見所へのアクセスが悪く、観光客の滞在時間が短いことが課題であった。こうした問題を解決すべく実施されたのが本業績の里みち整備事業で、島の北にある白浜地区及び福浦地区と南の田尻地区を回遊できるように結ぶ里みちの復旧がなされた。この事業を実施者は「海のほそみち Landscape Museum」と名付けている。
本事業の特徴は以下の3点にまとめられる。1点目は、里みちに沿って点在する生活、生業の痕跡に関わるエピソードの掘り起こしが行われ、景観にエピソードを重ね合わせることで、文化的景観の価値の見える化がなされていることである。石切場、石積擁壁の段畑、石積壁を持つ小屋、かつての玄関口の港、小学校分校跡の建物を利用した製塩工場、キリスト教への信仰、里みちからの眺望などが里みちの途中に散在し、通行を魅力的なものにしている。
2点目は、行政、コンサルタント、地元住民の協働による整備で、特に地元住民が参加するワークショップを数多く開催することで、地域全体で計画、実施、活用する体制が作られている点である。とりわけ里みちを生かしたこども世代の世界遺産学習、高校生へのレクチャーや体験については膨大な回数が実施されており、地域の未来を担う世代の育成に大きく貢献している。3点目がウォークスルーによる整備事業の実施という事業手法で、発注者、施工者、設計者が同時に現地を歩き、共同で確認して設計・施工・管理に反映させるというものである。この手法により、景観の多様性に対応した細やかな整備がなされており、価値の顕在化、伝統工法の継承、歩きやすさの確保、水みちの確保、景観になじむわかりやすいサイン計画といった諸点が同時に実現されている。
日本イコモス賞・日本イコモス奨励賞選考委員会
これらの特徴は、文化的景観の持続的継承の方法に対して示唆するところが大きい。それは手を入れる箇所を最低限に留めた整備、すなわち整備し過ぎない整備という方法を取ったことである。このことにより、島の生態系に大きな影響を及ぼさず、また地元住民による日常的なメンテナンスが可能になり、持続可能性が担保されている。また部分の整備に留まらず、島の南北を繋いで回遊することができる里みちの整備が実現されているのもこの手法を取ったことによる成果といえよう。島の特性を活かした新たな生業の開拓にも繋がる可能性を開くものでもあり、今後の活用の可能性を開く着実なインフラ整備としても評価できる。
本業績は、文化的景観の持続的継承において、保存と活用の均衡がとれた着実な整備手法を提示するものとして、先駆的な業績と評することができる。また、世界遺産の構成資産における整備のあり方としても、地域の持続可能性を主とした地に足のついた手法として特筆すべきものといえる。
日本イコモス国内委員会は、頭ヶ島の集落里みちの整備とその管理活用に関わるすべての人々の努力を讃え、その推進母体である「新上五島町、新上五島町文化的景観整備活用委員会、風景デザイン研究所(株)STEP」に「日本イコモス賞2022」を授与する。
【2022年度日本イコモス賞 受賞者講演 動画】
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